待遇格差の解消のための同一労働同一賃金について
平成30年7月に公布された働き方改革関連法によるパートタイム労働法、労働契約法及び労働者派遣法の改正は、同一企業内における正規雇用労働者(いわゆる正社員)と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇の差をなくし、どのような雇用形態を選択しても待遇に納得して働き続けられるようなルールを整備することにより、多様で柔軟な働き方を選択できるようにすることを目的としています。
これらの法改正は、①均等・均衡待遇ルール、②労働者に対する待遇の説明義務、③行政による履行確保措置(助言・指導等)や裁判外紛争解決制度について、パートタイム労働者、有期雇用労働者及び派遣労働者に関して統一的に整備しています。
パートタイム労働法の改称と適用対象の拡大
改正により、従来短時間労働者(パートタイム労働者)のみをその適用対象としていた「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)」に、有期雇用労働者に関する不合理な労働条件の禁止を定める労働契約法第20条の規定が統合・整理されました。
これに伴い、パートタイム労働者のほか有期雇用労働者をその適用対象とするものとして、パートタイム労働法は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート・有期労働法)」と改称されます。
短時間労働者(パートタイム労働者)
1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者。
有期雇用労働者
事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者。
この両者を合わせて「パート・有期羅用労働者」といいます。
均衡・均等待遇規定~待遇差が不合理かどうかの判断の枠組み
パート・有期雇用者の場合
パートタイム労働法第8条及び労働契約法第20条は、いわゆる正社員とパートタイム労働者または有期雇用労働者との労働条件・待遇の差異が不合理なものであってはならない旨を規定しています(均衡待遇規定) 。
パート・有期労働法は、裁判等の際に待遇の差異が不合理か否かの判断基準を明確化するために「均衡待遇規定」を改正するとともに、パートタイム労働法に設けられていた均等待遇規定(差別的取扱い禁止)について、有期雇用労働者も適用対象とすることとしました。
不合理な待遇差の禁止(パート・有期労働法第8条)
パート・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者*の待遇との間において、当該パート有期雇用労働者及び通常の労働者の職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)、職務の内容・配置の変更範囲、その他の事情のうち、待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
*通常の労働者:同一の事業主に雇用される正規型の労働者と無期雇用フルタイム労働者
差別的取扱いの禁止「均等待遇」(パート・有期労働法第9条)
職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)と職務の内容・配置の変更範囲が通常の労働者と同じパート有期雇用労働者はパート・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、通常の労働者との間で差別的取り扱いをしてはならない。
均衡待遇確保のための取組のポイント
★パートタイム労働者・有期雇用労働者はいるか?
★通常の労働者とバートタイム労働者・有期雇用労慟者の待遇に違いがあるか?
★待遇に違いがある場合は、待遇の違いが働き方や役割の違いに応じたものであると説明できるか?
↓
説明できないものは待遇の改善を検討
「均等待遇」とは働き方の前提条件が同じならば、同じ待遇にしなければならないという考え方。
「均衡待遇」とは働き方の前提条件の違いに応じて待遇の違いがバランスのとれたものとなっていることを求める考え方。
【有期雇用労働者と正社員の待遇差の不合理性の判断に関する参考判例】
♦長澤運輸事件(最高裁平成30年6 月1 日第二小法廷判決)
♦ハマキョウレックス事件(最高裁平成30年6月1日第二小法廷判決)
同一労働同一賃金ガイドライン
パート・有期労働法及び労働者派遣法の規定に基づき、待遇ことに不合理か否かの原則となる考え方や具体例を示す「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(同一労働同一賃金ガイドライン。平成30年12月28日厚生労働省告示第430号) が策定されました。
このガイドラインは、基本給、昇給、ボーナス(賞与)、各種手当といった賃金のほか、教育訓練や福利厚生等についても記載されています。また、このガイドラインに記載がない還職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理な待遇差の解消等が求められますので、各企業において、個別具体の事清に応じ待遇の体系について労使で議論していくことが望まれます。
不合理な待遇差の解消にあたっての留意点
■通常の労働者とパートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者との間の不合理な待遇差を解消するにあたり、基本的に、労使の合意なく通常の労働者の待遇を引き下げることは望ましい対応とはいえない。
■雇用管理区分が複数ある場合(例:総合職、地域限定正社員など)であっても、すべての雇用管理区分に属する通常の労働者との間で不合理な待遇差の解消が求められる。
■通常の労働者とパートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者との間で職務の内容等を分離した場合であっても、通常の労働者との間の不合理な待遇差の解消が求められる。
同一労働同一賃金ガイドライン【パート・有期雇用労働者の場合】
基本給
①職業経験・能力に応じて、②業績・成果に応じて、③勤続年数に応じて支給するなど、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれは違いに応じた支給をしなければならない。
賞与
会社の業務等への労働者の貢献に応じて支給するものにについては、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給をしなければならない。
各種手当て
役職手当→役職の内容に対して支給するものについては、同一の内容の役職には同一の、違いがあれば違いに応じた支給をしなければならない。
特殊作業手当(業務の危険度・作業環境に応じて支給)
特殊勤務手当(交替制勤務等に応じて支給)
精皆勤手当(業務の内容は同一)
時間外(通常の労働者と同一の時間外労働).休日・深夜労働手当の割増率
通勤手当・出張旅費
食事手当(労働時間の途中に食事休憩時間がある場合)
単身赴任手当(同一の支給要件)
地域手当(特定地域での勤務に対する補償)
これらも同一の支給をしなければならない。
賃金の決定基準・ルールに相違がある場合
通常の労働者とパート・有期雇用労働者との間で賃金に相違がある場合、その要因として賃金の決定基準・ルールの相違があるときは、「将来の役割期待が異なるため」という主観的・抽象的説明では足りず、賃金の決定基準・ルールの相違は、職務内容、職務内
容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして不合理なものであってはなりません。
定年後に継続雇用された有期雇用労働者の取扱い
定年後に継続雇用された有期雇用労働者についても、パート・有期労働法が適用されます。この場合、定年後に継続雇用された者であることは、待遇差が不合理か否かの判断にあたり、「その他の事情」として考慮され得ます(様々な事情が総合的に考慮されて、
待遇差が不合理であるか否かが判断されます)。
したがって、定年後に継続雇用された者であることのみをもって直ちに待遇差が不合理ではないと認められるわけではありません。
参考判例:長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日第二小法廷判決)
福利厚生・教育訓練
福利厚生施設(食堂・休憩室・更衣室) の利用、慶弔休暇等は同一の利用・付与を行わなければならない。
教育訓練(現在の職務に必要な技能・知識習得のためのもの)は同一の職務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じた実施を行わなければならない。
派遣労働者の場合
派遣労働者の場合、就業場所は派遣先ですから、原則として派遣労働者と「派遣先の通常の労働者」との比較において待遇差が不合理か否かを判断します(① 派遣先均等・均衡方式) 。
一方、派遣先の通常の労働者を基準として派遣労働者の賃金が決定されると、派遣先が変わるごとに賃金水準が変動してしまうとか、派遣先の賃金水準が必ずしも職務の難易度に整合しないといったケースもありますので、一定要件を満たす労使協定によって待遇を決定する( ② 労使協定方式) ことも認められます。
派遣先均等・均衡方式(労働者派遣法第30条の3)
福利厚生・教育訓練
派遣元から待遇情報の提供(義務)を行い、通常の労働者と派遣労働者との均等/均衡を図る。
派遣先の待遇情報提供義務
派遣先は、労働者派遣契約を締結するにあたり、あらかじめ派遣元事業主に対し、派遣労働者が従事する業務ごとに、次のような比較対象となる派遣先の労働者(比較対象労働者)の待遇に関する情報を提供しなければなりません。
比較対象労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、雇用形態、比較対象労働者の選定理由、比較対象労働者の賃金等の待遇の内容・性質・目的、待遇決定にあたり考慮した事項
労使協定方式(労働者派遣法第30条の4
派遣元事業主が過半数労働組合(なければ過半数代表者)と一定要件を満たす労使協定を締結し、当該協定に基づいて待遇決定(派遣先の教育訓練、福利厚生は除く)
教育訓練(法40条2項)、福利厚生施設(法40条3項)に関する情報。
※派遣元事業主は、派遣先から情報提供がないときは、労働者派遣契約を締結できません。
労使協定で定める事項
①対象となる派遣労慟者の範囲
②賃金決定方法
→(イ)協定対象の派遣労慟者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金額と同等以上の賃金額となるもの
→(口)派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力または経験等の向上があった場合に賃金が改善されるもの
③派遣労慟者の職務の内容、成果、意欲、能力または経験等を公正に評価して賃金を決定すること
④「協定の対象とならない待遇(法第40条第2項の教育訓練、同条第3項の福利厚生施設)及び賃金」を除く待遇の決定方法(派遣元事業主の通常の労慟者(派遣労働者を除く)との間で不合理な相違がないものに限る)
⑤派遣労働者に対して段階的・体系的な教育訓練を実施すること
痢吏協定が適切な内容で定められていない場合や労使協定で定めた事項を遵守していない場合には、派遣先均等・均衡方式が適用されます。
同一労働同一賃金ガイドライン【派遣労働者の場合】
賃金
〈派遣先均等・均衡方式の場合〉
■派遣先の通常の労働者と派遣労働者の賃金を比較
■基本給、賞与、各種手当等ことの基本的な考え方は前記パート・有期雇用労働者の場合と同様。
例)基本給→ 職務経験・能力、業績・成果、勤続年数に応じて支給するなど、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給をしなければならない。
〈労使協定方式の場合〉
■同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額と同等以上の賃金の額となるものでなければならない。
■職務の内容、職務の成果、意欲、能力または経験その他の就業の実態に関する事項の向上があった場合に賃金が改善されるものでなければならない。
■協定対象派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力または経験その他の就業の実態に関する事項を公正に評価し、賃金を決定しなければならない。
福利厚生・教育訓練
福利厚生施設(食堂・休憩室・更衣室)の利用、慶弔休暇等→派遣先の通常の労働者と働く事業所が同ーであれば、同一の利用・付与を行わなければならない。
教育訓練(現在の職務に必要な技能・知識習得のためのもの)→派遣先の通常の労働者と同一の業務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じた実施を行わなければならない。
改正により、派遣先には、派遣労働者に対する福利厚生施設(食堂、休憩室、更衣室)の利用機会の付与及び派遣元事業主からの求めに応じ業務の遂行に必要な能カ・知識習得のための教育訓練の実施が義務付けられます(労働者派遣法第40条第2項、第3項) 。
また、これらの待遇については、賃金決定について労使協定方式による場合であっても、派遣元事業主は、派遣先の通常の労働者との均等・均衡を確保する必要があります。
待遇に関する説明義務
パート・有期雇用労働者の場合
パートタイム労働法では、パートタイム労働者を対象に、待遇に関する事業主の説明義務が定められています。パート・有期労働法では、有期雇用労働者もこの説明義務の対象とすることに加え、待遇差の内容やその理由等についても、事業主に説明義務が課されます。
労働者に対する待遇に関する説明義務(パート・有期労働法第14条)
パートタイム労働者及び有期雇用労働者に適用
【雇入れ時】
本人に対する雇用管理上の措置の内容についての説明義務
①不合理な待遇の禁止(法8条)
②差別的取扱いの禁止(法9条)
③賃金の決定(法10条)
④教育訓練の実施(法11条)
⑤福利厚生施設(法12条)
⑥通常の労働者への転換(法13条)
【パート・有期雇用労働者からの求めに応じ】
待遇の決定にあたって考虞した事項についての説明義務
①労働条件の明示(法6条)
②就業規則作成・変更時の意見聴取(法7条)
③不合理な待遇の禁止
④差別的取扱いの禁止
⑤賃金の決定(法10条)
⑥教育訓練の実施(法11条)
⑦福利厚生施設(法12条)
⑧通常の労働者への転換(法13条)
【パート・有期雇用労働者からの求めに応じ】
パート・有期雇用労働者と通常の労働者との待遇の相違の内容及び理由の説明義務
パート・有期雇用労働者が2、3の説明を求めたことを理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止
※指針から法律に明記
待遇差の説明時の比較対象となる通常の労働者
職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等が、パート・有期雇用労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等に最も近いと事業主が判断する通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由について説明します。
派遣労働者の場合
労働者派遣法は、派遣労働者についても、パート・有期雇用労働者と同様、雇入れ時の労働条件の文書の交付等による明示や、待遇の内容に関する事項の説明、待遇差の内容・理由の説明を派遣元事業主に義務付けています。
また、労働者を派遣しようとする時も、派遣先が変わることにより待遇の内容が変更することがあり得ることから、労働条件の明示義務や待遇に関する説明義務が派遣元事業主に課せられます。
労働条件の明示義務と待遇に関する説明義務(労働派遣法第31条の2)
労働契約締結前
派遣労働者として雇用した場合の賃金額の見込みなど待遇に関する事項の説明義務
雇入れ時
①昇給・退職手当・賞与の有無、労使協定の対象者か否か、苦情処理に関する事項を文書の交付等(本人の希望でファクシミリまたは電子メール等も可)により明示する義務
※労働基準法第15条第1項に基づく労働条件の明示も必要
②不合理な待遇差を解消するために講する措置(派遣先均等・均衡方式により講する措置、労使協定方式により講する措置、賃金の決定方法)の内容の説明義務
労働者を派遣しようとする時
①賃金(退職手当、臨時に支払われる賃金を除く)の決定等、休暇に関する事項等を文書の交付等により明示する義務
※労働者派遣法第34条に基づく就業条件の明示も必要
②不合理な待遇差を解消するために講する措置の内容の説明義務
労働者からの求めに応じ
①派遣労働者と比較対象労働者(法第26条第8項)との待遇差の内容・理由の説明義務
[均等・均衡方式]
待遇の相違の内容として、それぞれの待遇を決定するにあたって考慮した事項の相違の有無、待遇の具体的な内容または実施基準を説明。
待遇の相違の理由について、職務内容、職務内容・配置の変更範囲その他の事情のうち、待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものに基づき説明。
[協定方式]
協定対象派遣労働者の賃金が、協定で定めた賃金水準や公正な評価に基づき決定されていることなどを説明。
②待遇の決定にあたって考慮した事項に関する説明義務
不利益取扱いの禁止
派遣労働者が説明を求めたことを理由とする不利益取扱いの禁止
行政による裁判外紛争解決手続の整備等
パート・有期雇用労働者や派遣労働者が、不合理な待遇差の是正・救済をより求めやすいように、行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続( 行政ADR) に関する規定が整備されました。
裁判外紛争解決手続(行政ADR)
バートタイム労働者も、有期雇用労働者も、派遣労働者も、次の制度を利用できる。
行政ADR
★都道府県労働局長による援助制度(助言・指導・勧告)
★調停制度(調停会議による調停・調停案の作成・受諾勧告)
対象となる紛争
パート・有期労働法
①労慟条件の明示(法6条1項)
②不合理な待遇の禁止(法8条)
③差別的取扱いの禁止(法9条)
④教育訓練の実施(法11条1項)
⑤福利厚生施設の利用(法12条)
⑥通常の労働者への転換(法13条)
⑦待遇に関する説明義務(法14条)
(雇入れ時、待遇決定の際の考慮事項、待遇差の内容・理由)
労働者派遣法
【派遣元事業主】
①派遣先均等・均衡方式(法30条の3)
②労使協定方式(法30条の4)
③雇入れ時の説明(法31条の2第2項)
④派遣時の説明(法31条の2第3項)
⑤派遣労働者からの求めによる説明(法31条の2第4項)
⑥不利益取扱いの禁止(法31条の2第5項)
【派遣先】
①業務遂行に必要な教育訓練(法40条2項)
②食堂・休憩室・更衣室の利用機会の付与(法40条3項)