女性活躍推進法等の改正について

2021.03.26

女性の活躍

女性をはじめとする多様な労働者が活躍できる就業環境を整備するほか、パワーハラスメント等の防止を図るため、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が令和元年6月5日に公布されました。

この改正法によって、女性の職業生活における活躍の推進に関する一般事業主行動計画の策定義務の対象拡大、情報公表の強化、パワーハラスメント防止のための事業主の雇用管理上の措置義務等の新設、セクシュアルハラスメント等の防止対策の強化等が図られ、事業主の義務に係る事項については、令和2年6月から順次施行されます。

改正事項と施行期日の一覧

※中小事業主の具体的な範囲は30頁の中小事業主の範囲と同様です。

女性活躍推進法

行動計画策定・情報公表義務の対象拡大
令和4年4月1日

その他(情報公表の強化・勧告違反の公表、プラチナえるぼし、報告徴収等の対象拡大)
令和2年6月1日

労働施策総合推進法

国の施策へのハラスメント対策の明記
公布日(令和元年6月5日)

国、事業主及び労働者の責務
令和2年6月1日

パワーハラスメント防止に関する雇用管理上の措置義務の新設
令和2年6月1日
※中小事業主は、令和4年3月31日までは努力義務

パワハラ問題に関する事業主への相談等を理由とした不利益取扱いの禁止
令和2年6月1日

紛争解決援助・調停、措置義務等の履行確保(報告徴収、公表規定整備)
令和2年6月1日
※中小事業主は、措置義務については、令和4年3月31日までは対象外

男女雇用機会均等法

国、事業主及び労働者の責務
令和2年6月1日

セクハラ問題や妊娠・出産等に係るハラスメント問題に関する事業主への相談等を理由とした不利益取扱いの禁止
令和2年6月1日

他社の措置義務の実施への協力(努力義務)【セクハラのみ】
令和2年6月1日

調停の意見聴取の対象拡大
令和2年6月1日

男女雇用機会均等推進者の選任努力義務
令和2年6月1日

育介法

国、事業主及び労働者の責務
令和2年6月1日

育児・介護休業等に係るハラスメント問題に関する事業主への相談等を理由とした不利益取扱いの禁止
令和2年6月1日

女性の活躍推進(女性活躍推進法の改正)

一般事業主行動計画の策定義務の対象拡大

女性活躍推進法に基づき、現行では、常用労働者数が301人以上の事業主は、自社の女性の活躍に関する行動計画(一般事業主行動計画)を策定し、これを都道府県労働局長へ届け出なければならないこととされています(300人以下の中小事業主は努力義務) 。

策定した行動計画は、社内の全労働者へ周知するとともに、外部へ定期的に公表しなければなりません。

今回の改正により、一般事業主行動計画の策定・届出・周知・公表義務の対象が、常用労働者数「301人以上」の事業主から101人以上」の事業主に拡大されることとなります(100人以下の中小事業主については引き続き努力義務となります) 。

情報公表の強化とその履行確保

現行では、常用労働者数が301人以上の事業主について、女性の職業生活における活躍に関する情報公表項目の中から任意の1項目以上を公表すればよいこととされています。

改正により、情報公表項目が①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供、②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に区分され、①②各区分からそれぞれ1項目以上公表する必要があります。

また、この情報公表義務の対象は、令和4年4月1日から、常用労働者数が101人以上の事業主に拡大されます。

なお、情報公表義務のある事業主が情報公表をせず、都道府県労働局長の勧告に従わなかった場合には、企業名公表の対象とされることとなります。

情報公表項目

(区)→雇用管理区分ごとに公表を行うことが必要な項目
(派)→労働者派造の役務の提供を受ける場合において、派遣労働者を含めて公表を行うことが必要な項目

①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供
・採用した労働者に占める女性労慟者の割合(区)
・男女別の採用における競争倍率(区)
・労働者に占める女性労働者の割合(区)(派)
・係長級にある者に占める女性労働者の割合
・管理職に占める女性労働者の割合
・役員に占める女性の割合
・男女別の職種または雇用形態の転換実績(区)(派)
・男女別の再雇用または中途採用の実績

②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備
・男女の平均継続勤務年数の差異
・1 0事業年度前及びその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合
・男女別の育児休業取得率(区)
・労働者の1月当たりの平均残業時間
・雇用管理区分ごとの労慟者の1月当たりの平均残業時間(区)(派)
・有給休暇取得率
・雇用管理区分ごとの有給休暇取得率(区)

優良事業主に対する特例認定制度(プラチナえるぽし) の創設

女性の活躍推進に関する状況等が優良な事業主への認定( えるほし認定) よりもさらに水準の高い「プラチナえるぽし」認定が創設されます。

認定を受けた企業は、厚生労働大臣が定める認定マークを商品などに付けることができます。

なお、取得企業は、行動計画の策定義務が免除されます。

ハラスメント対策の強化

近年では、上司や同僚などによるパワーハラスメント( パワハラ) 事案も多数発生し、各種相談機関にも相当数の相談が寄せられているところです。

現行では、セクシュアルハラスメント( セクハラ) や妊娠・出産等を理由とするハラスメント、育児・介護休業制度の利用等に関して行われるハラスメントについてそれぞれ、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法により、事業主にハラスメントを防止するための措置が義務付けられています。

今回の改正では、労働施策総合推進法に、パワハラを含むハラスメント対策が国の施策と明確に位置付けられ、国、事業主及び労働者の責務が明らかにされるとともに、これまで法律の規定のなかったパワハラについても、その防止措置を講ずることが事業主の義務とされます。

セクハラ、妊娠・出産、育児・介護休業等に関するハラスメントについても、今回の改正にあわせて、国、事業主及び労働者の責務、相談をしたこと等を理由とする不利益取扱いの禁止等について、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法に規定が設けられています。

セクハラ事案に関する他の事業主に協力する努力義務

事業主は、自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行い、他社が実施する雇用管理上の措置(事実確認等)への協力を求められた場合にこれに応じるよう努めることとされます。

パワハラ防止措置の義務化

事業主は、パワハラに当たる言動によりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、その労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。

また、法律の規定に基づき、措置の適切・有効な実施を図るための指針(※)が策定されています。

さらに、事業主は、労働者が相談をしたことや、事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、その労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。

自社の従業員以外の者に関するハラスメント事案にも注意
職場のハラスメントは、自社内のみに限りません。ここでいう「職場」とは、通常就業している場所以外の場所であっても、業務を遂行する場所であればこれに含まれます。

また、ハラスメント防止に取り組む際は、自ら雇用する労働者以外の者(例えば、取引先等の労働者、外注の個人事業主、インターンシップ等)に対する言動についても留意する必要があります。

さらに、取引先等の労働者や顧客からのハラスメント、迷惑行為に関しても、総合的に取り組むことがなお望まれます。

※「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雁用管理上講ずべき措箇等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)

パワハラの定義と3要素

バワーハラスメントとは、次の① ~③ の要素をすぺて満たすものをいいます

①優越的な関係を背景とした

当該事業主の業務を遂行するにあたって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者に対して抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの。

具体例

・職務上の地位が上位の者による言動
・同僚または部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの等

②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により

社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、またはその態様が相当でないもの。

■この判断にあたっては、様々な要素を総合的に考慮することが適当。
(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等)

■個別の事案で労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となることに留意。

具体例

・業務上明らかに必要性のない言動
・業務を遂行するための手段として不適当な言動
・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動等

③労働者の就業環境が害されること

その言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じること。

■同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業するうえで看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当。

パワハラの類型と具体例

具体例は、前記指針が示す一例を挙げています。

身体的な攻撃(暴行・傷害)

該当すると考えられる例

殴打、足蹴りを行う。

該当しないと考えられる例

誤ってぶつかる。

精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

該当すると考えられる例

・人格を否定するような言動を行う(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む)。
・他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う。

該当しないと考えられる例

・遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をする。

人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

該当すると考えられる例

・自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする。

該当しないと考えられる例

新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施する。

過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制仕事の妨害)

該当すると考えられる例

長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で勤務に直接関係のない作業を命する。

該当しないと考えられる例

労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる。

過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと

該当すると考えられる例

気にいらない労働者に対して嫌がらせのためにに仕事を与えない。

該当しないと考えられる例

労働者の能力に応じて一定程度業務内容や業務塁を軽減する。

個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

該当すると考えられる例

労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする。

該当しないと考えられる例

労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す。

ハラスメント防止のために事業主が講ずべき措置

妊娠・出産、育児休業に関するハラスメントについては、その原因や背景である「妊娠・出産等に関する否定的な言動」に「不妊治療に対する否定的な言動」も含まれます。

また、このような言動の要因を解消するため、業務体制の整備など、実情に応じ必要な措置を講ずることとされています。

事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

① 職場におけるハラスメントの内容・ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

② ハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

相談(苦情を含む)に応じ適切に対応するために必要な体制の整備

③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。

④ 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。
また、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生するおそれがある場合や、ハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること。

職場におけるハラスメントヘの事後の迅速かつ適切な対応

⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。

⑥ 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。

⑦ 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。

⑧ 事実の有無にかかわらす再発防止に向けた措置を講すること。

併せて講ずべき措置

⑨ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。

⑩ 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局へ援助を求めたこと等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

バワハラに関し行うことが望ましい取り組み

・職場におけるパワハラは、その他のハラスメント等と一体的に相談窓口を設置するなど、一元的に相談に応じることができる体制を整備する。

・コ三ユニケーションの活性化・円滑化のための研修、適正な業務目標の設定等の職場環境の改善のための取組を行う。

・必要に応じて、労働者や労働組合等の参画を得ながら措置の運用状況の見直しを検討する。衛生委員会の活用なども考えられる。

各指針共通事項

「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雁用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)
「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成28年厚生労働省告示第312号)
「子の迷育又は家族の介渡を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が固られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」(平成21年厚生労働省告示第509号)
「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して扉用管理上講ずべき措骰等についての指針」( 令和2年厚生労働省告示第5号)

紛争解決援助制度・履行確保措置

パワハラに関する労使紛争についても、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法における制度のように、都道府県労働局長による紛争解決援助(助言・指導・勧告)及び紛争調整委員会による調停の仕組みを利用することができます。

また、パワハラに関する措置義務の履行を確保するため、行政による報告徴収や助言・指導・勧告、勧告に従わない事業主に対する企業名公表の制度もあわせて設けられます。